本作中の震災設定と弊社の対応につきまして

本作【アステリズム】には、劇中の1996年に巨大地震と大津波が発生し数千人が犠牲となったという設定があります。また、本作の舞台は架空の町「千関市(せんせきし)」となっています(舞台名について2012年3月28日に変更発表)。

本作の企画~制作発表の経緯から東日本大震災発生後の弊社の対応について、以下の通りご説明します。

本作の制作発表まで

本作の企画は2010年夏にまとまりました。ちょうど【Sugar+Spice2】の発売と前後して本作の制作はスタートし、【スイートロビンガール】の制作と並行する形で作業が行われて参りました。

本作は【スイートロビンガール】(2011年2月発売)の広報の盛り上がりと連動する様に制作発表を行う方針でしたので、2011年1月発売のテックジャイアン誌上にてスクープ・制作発表をさせて頂きました。

東日本大震災の発生から開発凍結まで

2011年3月11日に東日本大震災が発生し、弊社の開発室があります茨城県水戸市も東北地方ほどではないにせよ被害を受けました。出勤できなくなったスタッフが複数名おり、開発室の後片付け等も含め通常業務に復旧するまで時間を要しました。

その後、開発中だった【アステリズム】について「この設定のまま作り続けて良いのか」という事に各スタッフが思い至りました。内部での話し合いの末、少なくともこのまま何事も無かったかのように本作を発売することだけは許されないとの思いから、開発一時凍結の上で業界内外の皆様のご意見も参考にしつつ再度検討することとなりました。

開発凍結の発表は2011年3月31日に行いました。

なお、この時点で「劇中の地震設定は物語の根幹をなしていた為、変更することは難しい」「アステリズムの開発を打ち切ると別企画の立ち上げは費用面から難しく、その場合はチュアブルソフト活動休止の可能性が高い」という状況でした。

開発凍結から制作再開発表まで

開発凍結の発表以降、業界内外の皆様から沢山のご意見を頂きました。

驚いたのは「開発を続けるべきではない」とのご意見が2通のみだったことです。ただ、わざわざご意見を送って下さるのは基本的に弊社を応援して下さっている方々ですから、それ以外の普段弊社に興味のない方々の思いも想像しなければと考えました。本作の開発を続けることと打ち切ること、双方のメリット・デメリットは何だろう?と色々と想像を巡らせました。

本作の開発を打ち切れば、「地震のことなんて思い出したくもないのに、地震設定があるゲームを作っている会社があるなんて」と感じる方々を傷つけることは回避できます。また、「その様なゲームを販売して良しとする業界があるなんて」と感じる方も居られるでしょうから、その意味では18禁PCゲーム業界への批判が上がる可能性も回避できます。

一方で、開発打ち切りから何か復興の役に立つ効果が生まれるかというとそうではありません。弊社スタッフの雇用を維持できず、各種の納税額も減るか無くなるかするだけです。

逆に開発を継続することで、ブランドとして・法人として出来ることには以下のようなものがあります。

①製品の生産を東北地方の工場に発注させて頂くこと。
②被害が甚大だった地域の弊社製品取り扱い店舗様に独自の特典をお付けし、売上に貢献すること。
③同エリアでのイベントを強化し、弊社を応援して下さっている現地のユーザー様へのサービスを強化すること。
④チャリティーグッズを生産・販売し、法人規模での義援金を集めること。
⑤その他、弊社の得意分野を生かして復興支援活動を続けること。

上記のメリットがあるからといって、傷つく方がいなくなる訳でも18禁PCゲーム業界への批判の可能性がなくなる訳でもありません。しかし、震災表現を売りにする様な作品を企画した訳でもないですし、劇中に震災を揶揄する表現が有るわけでもなく、やましいことはしていないという思いがありました。

何より、「大震災から復興した街でハッピーエンドを迎える物語の制作を打ち切ること」の方が復興の精神に反するのではと考えたのです。

弊社の考えについては、きちんと説明の場を設けることで、また行動で示していくことで、傷つけてしまう方や業界への批判の可能性を減らせるはずだと思い、関係各所に調整をさせて頂いた上で2011年6月11日に制作再開を発表させて頂きました。

この際、「本作の地震設定は変更しない」「復興の精神に反する表現をしない」旨と、本来であれば2011夏であった発売予定が完全に未定となる旨も合わせて発表しました。

なお、この発表と同時に私が以下のメッセージと画像を掲載致しました。

-今回の発表に寄せて-

チュアブルソフト開発室がございます茨城県水戸市は震度6弱の揺れに襲われ、東北地方ほど甚大ではないにしろ大きな被害を受けました。震災から三ヶ月が経過した今でも、茨城県内には地震の揺れと大きな津波による道路や建築物などの物理的被害が多く残っています。

また、余震の頻度が高いことや福島第一原発が近いことから心理的な負担も少なからず続いています。

それでも、「少なくともこのアステリズムという作品だけは世に送り出したい」とスタッフの意見は一致しました。一部スタッフは以前の生活環境には戻れず、開発環境にも大きな変化がありますが、士気高く制作を再開させます。

これに伴い、本作品のプロデューサーを担当しております私がチュアブルソフトの運営会社たる有限会社くくりの代表取締役に就任し、その責任にて制作を進めさせて頂きます。

最後に、【アステリズム】とは星が夜空に形作る図形パターンを意味します。普段星空を眺める機会が少ない我々にとっては少し馴染みの薄い言葉ですので、広報展開の初期(本年3月)から以下のような「季節のアステリズム」といった紹介画像を連載しようと企画しておりました。

春の大三角をご紹介する季節からは少し遅れてしまいましたが、東日本大震災によりダメージを受けた方々が夜空の星を心安らかに眺められる日が来ますよう祈りつつ掲載致します。

春の大三角

制作再開発表からアステリズム公式サイトオープンに至るまで

この状況下で本作の制作を続けることにした以上、東北地方の被害が大きかった地域に直接足を運んだ上で現地の皆様のお声を聞きたいと思い、何度かお邪魔させて頂いています。

石巻の沿岸部では、報道で見るのとは全く違う光景と雰囲気に足が震えました。その場で「本当に【アステリズム】を制作していいのか」ともう一度考えました。それでも、復興支援も含めて制作続行を決めたのだから、ここで迷うようでは失格だと思いました。むしろこの光景と雰囲気を知った上で復興支援への思いをより強くし、絶対に本作を世に送り出そうと決めたのです。

石巻店が津波被害に遭われたゲームショップ・株式会社シーガル様には、温かい応援のお言葉を頂きました。ありがとうございます。

「少しでも多くの人が東北へ足を運ぶきっかけを作りたい」との思いから、仙台七夕まつりに合わせて私が仙台にお邪魔し、ユーザーの皆様に向けて「もし現地で私と出会えたら名刺交換しましょう」と呼びかけたところ、現地の方のみならず関東からおいでの方も含め50名以上の方と名刺交換ができました。当日私にお声をかけて下さった皆様、ありがとうございます。

上記の名刺交換の模様をtwitterでご覧になっていたせんだいみやぎコンテンツプロジェクト様からは、被災地に目を向けさせ続ける活動についての協力のお話を頂き、既にプロジェクトが動き始めました。この様な機会を頂き、ありがとうございます。

弊社の思いを巻頭フルカラー6ページインタビューという形で掲載して下さった月刊メガストア様、ありがとうございます。

制作再開の発表後に応援のお声を下さいました店舗様・流通様・メーカーの皆様・各種メディアの皆様・そして何よりこの業界を支えて下さっているユーザーの皆様、ありがとうございます。

詳しい計画は何もないまま現地に体当たりで足を運んでいるうちに、次々と新しいご縁が生まれている状態です。応援して下さっている皆様に感謝しつつ、【アステリズム】の制作に注力していこうと思います。

これまでの経緯と感謝の気持ちをお伝え致したく、アステリズム公式サイトオープンに合わせてこの文章を掲載させて頂きました。

【アステリズム】やそれ以降の作品制作を通じて目指したいこと

現地の方のお言葉で、心に残っているものが2つあります。

1つは、「【アステリズム】という作品を作る以上、消極姿勢ではいけない」というものです。

「これだけ被災地に気を遣うから、【アステリズム】を出していいよね?」という姿勢ではなく、「【アステリズム】がこの状況となった以上は、制作・広報を通じてもっと積極的に復興支援に関わるぞ」という姿勢であるべきということです。

もう1つは、「ボランティア目的でなくてもいいから、沢山の人に現地に来て欲しい」というものです。

私はメガストア様のインタビュー内で「軽い気持ちで現地に行くべきではない」と語っていますが、その方の思いは「どんな動機でもいい。まともな心を持った人間が現地に来たならば、自分が何をするべきか自分で決められる」ということだったのです。
※もちろん、復興作業の妨げになったり、空き巣などを警戒している警察の皆様に疑われたり、現地の皆様を不快にさせたりするような行動は厳に慎むべきです。

これらのお言葉と弊社の得意分野を合わせて考えた結果、弊社が背伸びをし過ぎずに続けていける復興支援活動の主軸は、被災地(岩手・宮城・福島はもとより、報道で大きく取り扱われなかった地域も含みます)に一人でも多くの人の目を向けさせること、足を運ばせることだという結論になりました。

そしてこの活動は弊社単独ではなく、少しずつ萌え系業界の方にお声がけの輪を広げて合同イベントなどの企画とし、萌え系業界とそのユーザーだからこそできる活動として長く続けていきたいと考えています。

『さすが、萌え系業界やるじゃないか!』という支援にしていけるよう、頑張ります。

最後に、お問い合わせ等で「チュアブルソフトは【アステリズム】が最後の作品になるんですか?」といった質問を頂くことがありますが、そんなつもりは全くありません。

弊社は得意分野を通じて長く復興支援活動をしていくことに決めました。得意分野は萌え系表現ですし、主要商材は18禁PCゲームです。弊社を応援して下さっているユーザーの皆様の期待にお応えしつつ、この分野での勝負を続けていきます。

弊社の取組みにご賛同頂ける方は、ぜひ応援の程宜しくお願い致します。

2011年12月17日
チュアブルソフト プロデューサー・法務担当
有限会社くくり 代表取締役 石田真規